建築史研究室の歴史
奈良女子大学 生活環境学部 住環境学科と建築史研究室のあゆみをお話しします
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本学と住環境学科の歴史
奈良女子大学は、女子の教員を養成するため、明治41年(1908)に奈良女子高等師範学校が設置されたことに始まります。文科・理科・家事科の3科制でした。1952年には、学制改革のため、奈良女子高等師範学校から奈良女子大学に昇格し、文学部、理学部、家政学部の3学部となりました。その家政学部は、衣食住を司る、食物学科、被服学科、住居保健学科がありました。住居保健学科の住居学講座が、現住環境学科の始まりです。「講座」とは、現在の研究室のようなもので、各専門分野ごとに、教授、助教授、助手が置かれ、講座ごとに研究が行われる共に、学生に対して講義が開催されました。住居学講座は、1964年に生活環境学部住居学科、1993年に同学部住環境学講座に戻り、2006年に同学部住環境学科と、改組の影響で名称が変更し現在に至ります。
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住環境学科の建築史教育
1953年に始まる住居学講座では、住居設計学、生活工芸学、住居衛生学、住宅史、庭園学などの講義が行われました。この時の特徴は、庭園学があったことです。他の大学では建築系の学科で庭園を教える学科はほとんどなく、現在でも本学科の特徴です。建築単体の「住居」でなく、周辺環境や家の内部での生活など様々な環境を含めた「住環境」という意味が住環境学科には込められています。
1953年の時点ですでに学部の講義に「住宅史」がありますが、これは建築計画学の専門の北村君先生が担当しており、建築史の専門の教員ではありませんでした。
建築史研究者による講義が本学で行われるのは、1964年からです。大学院の「住居史特論」で、非常勤講師ですが、1964年から大阪市立大学の浅野清先生、1972年から奈良文化財研究所の鈴木嘉吉先生、1978年から京都大学の川上貢先生、1988年から京都大学の高橋康夫先生が担当されました。いずれも、建築史研究者として著名な先生方でした。
奈良女子高等師範学校 大正4年俯瞰図
たくさんの校舎が並んでいたことがわかります。
奈良女子高等師範学校 大正2年落成直後
この中央の記念館のみが現在まで残っています。
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建築史の「専任」教員
奈良女子大に入学した学生は、数ある大学の中から奈良という古都の大学を選んだためでしょう、他大の建築学科と比べて、建築史に関心を持つ人が多く、建築史の専任教員は以前から待望されたことでしょう。
「専任」の建築史研究者が着任するのは1993年です。京都大学助手だった増井正哉先生が生活環境学部住環境学講座の助教授として着任し、住居史研究室が開設されました。建築計画学の教員が担当してきた、学部講義の「住居史」を引き継ぐとともに、「住宅論」の講義を新設しました。先述の、非常勤講師に依頼してきた大学院の「住居史特論」も引き継がれました。ここでやっと、住居学講座に、建築史研究者の専任教員による教育と研究の環境が整ったのです。
ところで、同年、生活文化学講座にも、建築史研究者である奈良文化財研究所の上野邦一先生が着任し、奈良県内の街並み調査だけでなく、アンコールワットを始めとした東南アジアの文化財建造物保存にも尽力されました。現在でも本学の古代学・聖地学研究センターの名誉教授として本学に貢献していただいています。奈良女子大の学生は、昼休みにグラウンドでサッカーの練習されている上野先生の姿を何度も見たことがあるはずです。
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歴代の建築史教員
増井正哉先生は、歴史的町並みの調査や保全に関する研究を23年間進め、全国各地の重要伝統的建造物群保存地区の制定に多大な貢献をされてきました。2016年に増井正哉先生が京都大学に着任するに伴い退職されました。
同年、広島国際大学から本学に着任したのが藤田盟児先生です。藤田先生は中世住宅の研究を進めるとともに、本学における工学部の新設に奔走します。2022年4月に工学部が新設されるのに伴い、生活環境学部住環境学科から工学部の所属へと配置換えとなり、住環境学科の建築史の教員の席は空席となりました。
半年の時間をおいて、2022年10月に、文化財建造物保存技術協会で文化財建造物の修理と保存の設計監理と調査研究に携わってきた、坂井禎介が専任講師として着任しました。
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研究室と講義名の変更
研究室名と講義名は、時代とそれぞれの教員の考えに合わせて変更がなされてきました。
1998年に住環境学講座から住環境学科にが変更されるのに伴い、住居史特論は住環境史論に名称変更し、新たに住環境史論演習が開講されました。1999年に、一級建築士取得要件の関係で、「建築」の文言が必要となります。増井正哉先生が、講義名を、住居史から建築・住居史に、住宅論から建築・住宅論に変更し、住居史研究室を建築・住居史研究室に変更しました。
2024年10月には、坂井が着任したのに伴い、住居にとどまらず、建築史全体の包括的な視点からの研究教育の必要があると考えるとともに、学外や学生への認知を上げるためには名前をシンプルにする必要があると考えました。以上のように歴史のある「住居」という名前を残すべきかどうか迷いましたが、研究室名を建築史研究室に、講義名を建築史Ⅰ、建築史Ⅱに変更しました。